―“山﨑努さんの熊谷守一が観たい”というところから、「モリのいる場所」は出発したそうですね。
はい、『キツツキと雨』に出演してくださった山﨑さんとまた仕事がしたい、 山﨑さんのあこがれの人だという守一さんを演じてもらいたいと、完全な当て書きでした。熊谷守一さんは実在した画家ですが、 堅苦しい伝記映画でもドキュメンタリーにもしたくない。だから守一さんの一日をどんな風に作ろうかなと、 これまでのフィクションと同じ感覚で書きました。舞台は守一さんの家と庭だけなので、 庭がまるで“小宇宙”であるように描きたかったんです。
―山﨑さんと樹木希林さの醸しだす“長年連れ添った夫婦感”が最高でした。
何も言うことがないくらい、お2人がそこに居るだけで絵になるので。2人とも脚本をすごく気に入ってくださって、 その面白さを掬い取り、現場で作ってくださいました。樹木さんは色々なことを考えられていて、 現場で“こうしたらもっと面白くなる”と一緒に作っていく感じでした。 山﨑さんも“そうすると台本のこの面白さがなくなるけど、いいかな”と、すごく相談に乗ってくださいました
―例えばどんな樹木さんからの提案を、作品に生かされましたか?
僕は、観ているうちに何となく分かればいいと、夫婦が子供を亡くされたことを脚本に書きませんでした。 守一さんの“生きものが好き”なことに理由を持たせたくなくて。 でも、樹木さんが「うちの子たちは死んじゃった」というセリフを入れたい、とおっしゃって。 入れてみたら変に意味も持たず、むしろいいセリフで(笑)。他にも、焚火が好きな守一さんのために、 前日のゴミをとっておくだけで素敵だと思ったのですが、モニターで見ていたら、 樹木さんが燃えやすいように紙クズをクシャっとする演技をされていて。僕には思いつきもしませんでした。