THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE04 三谷 幸喜(脚本家・演出家・映画監督)

戦争やチャンバラではなくて、話し合いで物事が決まった“清須会議”日本の歴史の中で初めて会議で歴史が動いたことを知って、衝撃を受けました

―『清須会議』は、まさしく傑作歴史エンターテインメントですね!構想40年ということですが、最初に“清須会議”を知った小学生の当時、どこに魅力を感じたのでしょうか?

清州会議

©2013 フジテレビ 東宝

僕が清須会議を知った小学校4~5年生 ―― 時期は取材のたびに変わっていますが(笑)、だいたいそのあたりですね。
歴史好きな叔父がいて、その人は会社員でもあったので、戦国武将のビジネス戦略書などを愛読していました。その中に清須会議も出てきて、その時に日本の歴史の中で初めて会議で歴史が動いたことを知って、それが衝撃的でした。
戦争やチャンバラではなくて、話し合いで物事が決まったということに面白みを感じましたね。

―おっしゃるとおり、現代の会社などにおける会議に通じるものがありますよね。猛将の柴田勝家や、やがて天下を取る羽柴秀吉が、会議で戦をした展開には説得力がありました。

もともと清須会議の内容は、現代に通じるものですよね。会議の前の根回しや相手を説得するためのノウハウみたいなことも人間である以上、基本的なことは今も昔も変わっていないなとすごく感じますよね。今回、脚本を書く上での具体的なセリフ回しについては、自分が今まで他人を説得した経験などを考慮しました。たとえば丹羽長秀を羽柴秀吉が口説いて落とそうとする場面では僕の場合はどう説得するか考え、反対に長秀の場合、僕は何を言われれば秀吉側につくか考えて書きました。だから、説得力はあるとは思います。

―いわゆる時代劇的な流血やチャンバラは登場しないですが、一国の歴史が動く重大な会議だけに、参加者の次の一手が何かが気になって、本当にスリリングな群像ドラマでした。

「三谷 幸喜(脚本家・演出家・映画監督)」

そうですね。清須会議は、本当にスリリングです。
実際に秀吉は会議の席上で一回、席を立っているそうです。僕の勝手な創作じゃない。いろいろな説がありますが、どっちにつくか迷う長秀に対して無言の圧力をかけるためにお腹を壊して席を立ったという事実を知った時、どれだけすごい男だって思いましたね。僕らはその先の歴史を知っているので見逃しがちだけれど、秀吉はギリギリのところにいたわけで、もしかしたら自分がいない間に勝家や長秀が結託することだってあるじゃないですか。
先がどうなるかわからないのに会議の行方を長秀に託す決断をした。それは、すごいな秀吉!って、思いますよね。そう考えれば、やがて秀吉が天下を取ることは必然だった、と思わざるを得ないですよね。

―ちなみに、三谷監督の個人的な想いが一番強い、お気に入りのキャラクターは誰ですか?

僕が一番好きな人物は、その丹羽長秀ですね。とても地味な存在なので、だいたい大河ドラマなどでもまともに描かれたことがなくて、なんとなくいる感じの人。でも、この清須会議に限って言うと、本当の主人公は彼のような気がしていて。たとえば勝家も秀吉も自分の意見があってブレないけれど、実は長秀はブレまくりな上に、正反対な立場についちゃうわけじゃないですか。でも、それって多くの人たちの代表のような気がします。そもそも勝家も秀吉も、特別な人たちじゃないですか。だから、その間で揺れ動く長秀は一般の代表なんです。
しかも、その時の長秀の決断が織田家の行く末を決めてしまい、秀吉が天下を取るきっかけになってしまう。しかも、その日本の歴史を変えてしまうほどの決断なのに、彼自身は気づいていないですよね。そこが切ないし、そこにドラマを感じますね。だから実は、僕の中では長秀こそが主役です。でも全員、魅力的な人間たちばかりですが。

映画館でスタッフの方々にお会いすると親戚に会ったみたいな感じでうれしい。今回は、ラテアートの反響も気になる(笑)。

―その『清須会議』の魅力的なメインキャラクターの4武将が、全国のイオンシネマ74劇場限定でラテアートとして登場中です!この企画を初めて聞いた時、いかがでしたか?

僕が映画の宣伝のために描いた4武将のイラストをラテアートにしていただいたのですが、どれだけの人が喜んで飲んでくれるか ―― かわいいな、素敵だなって思う模様であればともかく、人間の顔ですからね(笑)。イラストが泡の上でどう再現されるか心配でしたが、本当に元のイラストのとおりに作ってくださったのでうれしいです。ぜひ飲んでみたいと思います!
ただ、どの顔が一番売れるかは気になりますね。一番クオリティーが高そうだと思ったのは、勝家ですね。その顔が飲むとどう変わってくか、その過程も見逃せないと思いました。

―映画の上映と連動する劇場来場型のイベントは、一般の映画ファンの皆さまに好評です。また、最後に作品を直接、お客さまに届ける役割を担うシネコンに期待することありますか?

いつも思うことは、映画って本当にたくさんの人が関わって、長い時間かかって完成するということです。出発点はプロデューサーと僕で始まりますが、その後に脚本を書いて映画を撮って、最終的に公開まで、そのすべての道を辿っている人間は、僕だけなんですよね。だから、どれだけの人たちが、どれだけの苦労をしているか、すべて知っています。
たくさんの時間と労力のかかった作品が最終的に宣伝部の人たちにバトンとして渡されて、シネコンや全国の映画館に届く。だから、僕も宣伝には必死になります。それと同じ覚悟を映画館の人に持てとは言わないですが(笑)、大変でしょうけれど、頑張ってほしいです。

―本当に公開まではリレーのようです。でも、いい映画を届けたい想いは皆一緒ですよね。

そうですね。お客さんと直接対応する人たちは映画館で働く皆さんなので、これはもう、映画のスタッフの一人だと僕は勝手に思っています。本当は、作品のエンドクレジットにお名前を入れたいほど。本当に、そう思います。
実はたまに自分の映画が公開された後、お客さんが入っているか、笑っているか知りたくて、こっそり映画館に観に行きますが、そこで働くスタッフの方々にお会いすると親戚に会ったみたいな感じでうれしいですし、皆頑張っているか?みたいな気持ちになります。
今回も『清須会議』を観に行くかもしれないです。だいたい映画監督って、皆行っていますよね?次回作の参考にもなる。それこそ、ラテアートの反響も気になるじゃないですか(笑)。次回は、もう止めようとか、反響があるので、またやろうとか(笑)。

映画は、全然知らない大勢の人たちと一緒に観たほうが、絶対面白い!巨大なスクーン、いい音響設備で観ると、監督でさえ初めて気づくこともある

―ところで、映画ファンの三谷監督は、映画館によく通った時代の想い出も多そうですね。

「三谷 幸喜(脚本家・演出家・映画監督)」

映画館によく行っていた時期は大学生くらいですかね。当時はレンタルビデオ店ができる前後で、昔の映画を観る術が少なかった。テレビの放送か名画座に通うことが一般的な時代で、僕自身、名画座で一番観ていた時期だと思います。
ビリー・ワイルダー特集をやっていれば、オールナイトで観たことも。やはりコメディー映画は知らない人たちと大勢で観て、笑い声に包まれて観るスタイルが正しい観方だと思います。

―『清須会議』みたいに観る世代を特定しない映画も、映画館で観たほうが楽しいですね。

そう思いますね。全然知らない大勢の人たちと一緒に観たほうが、絶対面白いですよね。大きなスクリーンで、いい音で観るということも本当に大事。僕は『ラヂオの時間』('97)で初めて映画を撮りましたが、その時にびっくりしたことがありまして、ロサンゼルスの撮影所にある試写室で観た時に、音響設備がものすごくよかった。監督なのに初めて気付く音があって、そうなってくると映画のイメージがまるで違う。唐沢(寿明)さんの芝居を何度も観ているのに、今日のは違う!と思うほど(笑)。
だから、いい環境で観ることは、すごく大事だと思いました。特に『清須会議』では着物の柄ひとつとってもディテールにすごくこだわったので、情報量が多い。映画館の大きいスクリーンで観るほうが絶対に面白いです。

―美術・種田陽平氏、黒瀧きみえ氏の格調高い清須城を始め、迫力の映像美も必見ですね。

本当に素晴らしいですね。これは時代劇の良い点だと思いますが、映像の中にたまたま映りこんだものなどひとつもないわけです。すべてがこの映画のために作りこまれたもので、僕のチェックが入ったものだから。勝家の耳毛にいたるまで、すべてチェックが入っています。それだけのものを集合体として観た時に、手間をかけた、力のある、豊かな映像に仕上がっていると心底思いました。これは大きな画面で観ないと、わからないことですよね。

―最後の質問になりますが、映画を待っているファンにメッセージをお願いいたします!

どうしても歴史物は時代を描くことがメインになるので、そうなると織田信長や勝家や秀吉、皆が記号になってしまうわけですね。そうじゃなくて、僕は目線を下げて、現代の我々と同じような悩みや将来の不安を抱えた彼らが観たかった。そういう意味で、今までは遠い昔の記号でしかなかった歴史上の人物たちが、すごくいきいきとして“そこにいる”5日間を作りたかったし、そういう作品になったと自分では思ってます。
『清須会議』を観て歴史を見る目、時代劇の観方が変わるといいなあと思います。ぜひ、映画館へお越しください。

Profile

【VOICE04】三谷 幸喜 脚本家・演出家・映画監督 1961年7月8日、東京都生まれ。1983年劇団「東京サンシャインボーイズ」を結成。以後、舞台、テレビドラマ、映画の脚本・演出を多数手がける。『清須会議』は構想40年、映画では初の時代劇に。代表作は「古畑任三郎」シリーズ、『THE 有頂天ホテル』('06)、『ステキな金縛り』('11)など。
©(C) 2013 フジテレビ 東宝 取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

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