―映画館での公開時、大反響でした。その声が届いた時、どういう想いでしたでしょうか?
『009』という作品が長い時代、幅広い世代が強く愛していることを痛感しました。
もともとフル3D立体視の映画を新しく作りましょうということが映画企画化の発端でしたが、石ノ森章太郎先生の原作が最初に誕生して50年、想像していた以上にファン層の幅が広い作品で、本当にさまざまな世代の方々の反響をいただいて作り手としてとても光栄でしたね。
―公開時は臨場感に満ちた映像美も話題になりました。3D映像の技術はいかがでしたか?
今回3Dで作る機会をいただいて、その中での最適な表現を模索しました。
抽象的ですが、足し算だけでなく引き算の要素もあって、たとえば3Dはスローモーションの表現などが手で描くセル以上に幅が広がるけれど、キャラクターなどの物量的にはセルのほうが多く描ける。
だから、3Dで作ると登場キャラクターの数が限定的になってしまうという、思いもしなかった制約が新たに誕生するわけです。
そこで効率的な作業法を考え、セルに比べて物量が少なくなっていることを観ている人に感じさせない工夫を施す必要がある。そういう足し算、引き算など、言ってみればパズルの組み換え的に考えて作業はしていましたね。
―技術が進歩して新たな課題が発生する中、制作する上で注意したことは何でしょうか?
デジタルの時代になっても絵を動かすことはカロリーが要るものなので、そもそも絵が動かなくてもカッコよく見える方法を、いろいろなクリエイターたちが実際に試していますが、僕は古典的な表現を死守したいタイプで、アニメーションだけれど、どこか実写映画を撮っているような感覚を残そうとしています。
たとえば実写でカメラを置けない角度であれば、アニメーションでも置かない。壁を外さないと置けなければ、置かないということを実践して、すべてが作り物のアニメーションをなんとなく本当っぽく見せる。
少なくとも今回の『009 RE:CYBORG』以前は、そういうことにこだわっていたとは思いますよね。
―伝統と進歩の話題は、映画館の今昔にも当てはまります。映画館の思い出はありますか?
ええ。僕は田舎に暮らしていて、小学校の3~4年生まで映画産業が活発だった直接的なイメージがあります。
地元には時期を過ぎた映画をかける弐番館もあって、お小遣いをはたいて観に行っていましたよ。
まさしく、僕にとっての『ニュー・シネマ・パラダイス』(89)。中学、高校時代はアルバイト先で中学生は200円、高校生は500円で観られる割引券が手に入ったので、それを手にしては映画館に入り浸る日々。それが最初の映画館体験ですね。
―そして家庭でのレンタルビデオ鑑賞が一気に普及して、劇場もシネコン化が進みました。
そうですね。ちょうどビデオの時代が来た時に観ていなかった過去作を大量に観始め、シネコンが登場した時も便利な時代になったと確かに思いました。ちょうど仕事が忙しくなってきた時にハシゴまではいかないまでも、シネコンでまとめて観ることも可能になって。
―ちなみに映画監督を目指すにあたって決定的な作品との衝撃の出会いはありましたか?
はい。僕にとって決定的だった映画は『スター・ウォーズ』(77)で、いわゆる“エピソード4”ですね。
もしも物語が終わっていたとしても、ルークとハン・ソロは僕の中で活躍を続けていたはずで、この映画を観終われば二度と会えなくなるけれど、素敵な冒険を一緒にすることができたという豊かな気持ちになりましたよね。特に多感な少年時代だったので頭に焼き付いていて、自分の作品もそうあればいいなとことあるごとに思いますよ(笑)。
『スター・ウォーズ』(77)を観て、それを作りたいという出発点だったので、実は実写映画をよく観ていて、だから僕が目指しているスタイルは、どこか洋画的な要素があります
―余談ですが、『スター・ウォーズ』は新シリーズが始動しますよね(笑)。期待しますか?
2015年にリニューアル版が完成するそうですが、監督がJ.J.エイブラムスと聞いて、とても不満です(笑)。
そこに呼ばれる予定でやっていたつもりだったので(笑)、間に合わなかったですね(笑)。ただ、今回の『009 RE:CYBORG』の音響は、夢だった『スター・ウォーズ』(77)、そしてジョージ・ルーカスのスカイウォーカー・サウンドのオファーを受けて制作することになったので、一緒に仕事をすることで少年の日の夢が叶ったような気持ちにはなりました。
サンフランシスコのオフィスでルーカスがたまたま座っている姿を見かけました。ルーカスを生で観たことに対して運命的なものを勝手に感じましたが(笑)。
さて、石ノ森先生の出身地・宮城県にある、石巻市の旧ワーナー・マイカル・シネマズ新石巻では、レッドカーペットイベントを行いました。地方のシネコンを訪問して いかがでしたか?
当時は震災後ということで石ノ森萬画館が復興に向けて再始動したタイミングで、映画そのものだけではなくて、どこか包括的に石巻の人たちが『009』全体に注目しているという重みを感じました。
単純に映画が完成したので、観てくださいというわけではないという気がしましたね。
僕は映画を作って観ていただく立場ですが、舞台挨拶の日などは僕も観客になるわけです。
ようやく作り手の立場が解放され、一瞬観客になる瞬間ですが、今回の石巻では作り手のプレッシャーが解放されなかった。そういう想いに至った場所ですね。
―シネコンは丹精込めて作った映画を観客の皆さまにお届けする場所ですが、作り手への刺激にもなるわけですね。この先、日本一の規模を誇る「イオンシネマ」に期待することは?
シネコンが誕生した時にここまで映画館で観やすくなったかと、すごく感動したわけで、要望はないですかね(笑)。
そもそも以前の映画館には映画の選択肢がなかったので、自分で調べて、お目当ての映画館に行くスタイルでしたよね。僕は地方だったので公開後にすぐ観たい場合は、情報誌片手に2時間くらい電車に乗って移動していました。
それが映画の選択肢が増えたほか、満席でも別な映画が楽しめて、きれいで清潔。贅沢な空間ですよ。上映の開始を待っているだけの空間もあるとか、ちょっと前までなかったわけなので(笑)。
―せっかくですので、現場で働く「イオンシネマ」の従業員へのご意見などはありますか?
(笑)。いや、そもそもシネコンになった段階で相当に快適なので、難しい質問ですね。
それこそニッコリと微笑みを返してくれるだけで、その後の2時間を楽しめると思います。シネコンが楽しい素敵な場所であることを演出してくれれば、ますます楽しいですよ。
映画が主役なので特別なアピールは不要ですが、雰囲気を作っていただければうれしいです。
―最後の質問になりますが、映画を愛するファンの皆さまへ一言メッセージをお願いします。
映画が廃れると贅沢な空間もなくなってしまいますので、今回のように拡大していくことに対して期待感を感じます。
映画館で映画を観ることは安くない娯楽かもしれないですが、ケータイやタブレットで観る映像とは全然違う映画体験をしてほしいですね。
映画って約2時間、一回も途切れずに集中して観なければいけない、そう観るものじゃないですか。それで初めて得る感動もあるはずなので、シネコンで観る映画を楽しみたいと僕は思います。