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「イオンシネマ」では現在活躍中の著名な映画人に毎回、映画にかける思い、映画館の想い出などをうかがっていますが、まずは主演最新作『マエストロ!』を鑑賞した感想は?
コンサートのシーンは全キャストとスタッフが5日間ほどかけて、顔が土色になりながら撮っていたシーンでもあって、観ていて思い出がよみがえりましたね。ちょっと顔がやせているなとか、辛かったなとか(笑)。でも、たくさん練習できるということで最後のほうに撮ったのですが、おかげで団結が生まれました。もうすぐコンサートの本番が始まるという危機感にも似た意識もあったので、その緊張感は作品ともリンクしていてよかったです。
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ヴァイオリニストである主人公のマインドとリンクして、緊張感が生まれたわけですね。
ある種、主人公の香坂を演じる上でもよかったと思います。彼が求める音楽性はとても高く、「この世で一番美しいものは音楽!」だと言い切ってしまうくらいの音楽人間なので、コンサートマスターとしての彼がこなそうとしているハードルと、小林聖太郎監督が要求するハードルの高さが同時にあって。どうやってクリアするか悶々としながらの時間も含め、役作りじゃないですが、この作品を想う、いい時間を過ごせたような気がしましたね。
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楽器のマスターは大変だったと思いますが、難しい感覚を超えて楽しく感じることも?
ちょっと上達すると、面白いなって不思議と思うものですが、実は、そこに行くまで、すごくしんどい。気が滅入りますし、何度も心折れそうになりますが、でもワンステージ上がると、そこを上がった時の喜びはすごく大きくて。それが楽しくて続けられたような気がしています。今はもうできません(笑)。たぶん、もう一度「やれ」と言われても、もうできないんじゃないかなあ(笑)。練習用のヴァイオリンをいただきましたけれど(笑)。
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ところで映画館の話に移りますが、最近シネコンに映画を観に行く時間はありますか?
以前ほどではないですが、時間がある時はシネコンに出かけています。実は、映画館が好きなんです。あの匂いが好きで(笑)。ポップコーンやお菓子の匂いが漂うのもいいですし、時間を密閉する感じも魅力的ですね。映像と音楽以外が流れない限定的な空間で、世界観をきちんと提供してくれる場所だと思っているので、映画館が僕は好きですね。
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初日の舞台挨拶でシネコンに行かれると思いますが、そういう時と感覚が違いますか?
それとは全然違いますね。お客さんとしてソファーに座って、そろそろ上映かな、みたいな待っている時間もいいですよね。意外と流れている予告編で新しい映画を知ることもあるので、予告編を観ながら、あれは面白そうとか、次はこれを観てみようとか、次は、この人が主演なので観てみようかなとか、本編が始まる前の、予告編の段階で楽しいですね。
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「イオンシネマ」のようなシネコンは、お客さまに映画というバトンを渡す、最後の場所になります。そこで映画として、そこで働くスタッフたちにメッセージなどはありますか?
難しい質問ですね(笑)。でも、観終わった人たちの感想を手書きでもいいので、書いて貼ってあるとうれしいかもしれない。シアターの入口などに書いてあって、それを貼ったものを見たい気がします。ある作品の上映期間中に、それがあることで、ある映画に全然興味がなかった人が読み、観てみようかなという気になるかもしれない。『マエストロ!』なら「音楽がよかったよ」とか。観た人の言葉が残るようなサービスがあればいいですよね。
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確かに手書きのPOPなどがあることで、人の感想って強力に伝わるような気がしますね。
いまはネット時代なので、そのレビューがメインですよね。でも、そうじゃなくて、映画館で観た人たちが、その場で書き残して書いていく。そこに意味がありそうな気がします。
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さて、『マエストロ!』の撮影では、ヴァイオリンのケースの出し入れにもこだわったそうですね。
そこには作品への情熱も感じますが、どういう想いで撮影に臨まれていますか?
毎回作品によっても違いますが、たとえば今回のヴァイオリンは、自分では構えるまでがキモだなと思ったので、その人がどれだけヴァイオリンを触ってきたかが伝わると思ったんです。それは違う作品でもそうで、たとえば、全盲で目が見えない役柄を演じた時は、モデルの方の家におじゃまして、私生活を共有するなどして演技の参考にしました。そういう方々に失礼がないように、事前に勉強できることはする、みたいことはしていますね。
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なるほど。徹底的に準備を重ねることで、なるべくウソがないよう心がけているわけで。
でも、資料半分、現場半分みたいなところもあって、たとえば大河ドラマの場合、現場で真実を見つけていく感覚を大切にするところもあります。資料だけでは埋まらない空白がある。それ以上のことは、調べただけじゃわからないことがあるわけですよね。実際に、生きた人たちのことは、究極的にはわからない。でも現場に行くと、それぞれが研究してきたことがあって、それを持ち寄って真実に近づける。まさしく『マエストロ!』も、皆で楽器を練習して、コンサートのシーンで力を出す。現場に入ってからの努力も重要です。
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最後になりましたが、今回の『マエストロ!』は、どんな映画になりましたでしょうか?
まるで、あるオーケストラのドキュメンタリー映画を観ているような、そして最後に小林監督がこだわりぬいたコンサートシーンがあって、お得だなと思いました(笑)。本物のようなコンサートを鑑賞した後のような気分に浸れ、自分が出ている映画ですけれど、これが1,800円で楽しめてお得だなと(笑)。最後の最後まで音楽という時間を堪能できる作品に仕上がったと思いますので、映画『マエストロ!』、期待していただければと思いますね。