THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE09 園子温(映画監督・脚本家)

シネコンの場合、一日でけっこうな量の映画が楽しめますよね。お金はかかりますが(笑)

―現在活躍中の著名な映画人に毎回、映画にかける思い、映画館の想い出などをうかがっていますが、監督も『地獄でなぜ悪い』の映画監督志望・平田のような映画青年でしたか?

地獄でなぜ悪い ©2012「地獄でなぜ悪い」製作委員会

映画青年というか、映画子どもでしたよ(笑)。小学校三年生とか、物心ついた頃には、映画三昧の日々でした。当時は四六時中、テレビをつければ洋画が流れていた時代で、今の人がシネフィルを気取って、あれは観なければ、とか言っているような映画が、全部放映していた(笑)。
僕はウルトラマンを観るような感覚で、ヒッチコックやトリュフォーを観まくっていました。その頃は洋画にハマッていて、観られるものはすべて観ていましたね。

―小学生でトリュフォーは英才教育ですね(笑)。ジャンル問わず、何でも観ていましたか?

テレビなので、それこそ選ばず、ですよね。クリストファー・リーのドラキュラ映画やジョン・ウェインの西部劇、フランスのちょっと気取った映画と、「ウルトラマン」、「怪奇大作戦」、アニメなどを同時に観ていて、そのなかで映画が一番面白かった。一番観ていた時代ですね。高校時代になるとそれほど観なくなって、一番ハマった時は小学校の時ですね。

―そうすると、小学校を卒業した後に、映画館で映画を観るようになったわけでしょうか?

映画館に行くようになった時期は、中学生くらい。さすがに観まくるには金がないので、チョイスしながら一か月に1、2本、映画館で映画を観ていたかな。うーん、残念だなあ。もうちょっとお金があれば、映画にハマれたのに。映画にハマるほど観たかったですね(笑)。

―現在は「イオンシネマ」のようにシネコンという形態に変わりました。大規模で複合的な興行が主流になったわけですが、当時の映画館などと比べ何か想うことはありますか?

昔は二本立て興行で、今の人が不幸だなあって思うことは、レコードのA面、B面で言うと、A面を観に行ったが、B面のほうが面白かったということがあったじゃないですか。その意外性が、当時の映画館にはあった。今は1本しか観られない場合が多い。でも、シネコンの場合、一日でけっこうな量の映画が楽しめますよね。お金はかかりますが(笑)、移動がないので楽です。ただ、問題は観たい映画があるか?って、いうことでしょうけれど(笑)。

求められていることをやるというより、自分がやりたいことをやっていこうと思っている

―さて、監督最新作の『地獄でなぜ悪い』ですが、大昔に書いた脚本を掘り起こして、念願のアクションを撮った、そうですね? 完成した時、どういう気持ちで観ていましたか?

「園子温(映画監督・脚本家)」

そうですね。積年の想いはありました。やっと、撮れたなあって感じです。予算かかるので、いつか撮れればいいなという感じだった。せっかく撮ったので、これが区切りにならなければいけないですが、反省点は後からくよくよでますね(笑)。

―想いが結実したことで、監督の内面で価値観の変化や新しい発見などはありましたか?

いや、特にないですね。現在の自分が入っているということよりも、17年前の自分がたくさん入っている作品なので、自分の脚本なのに他人のモノのような気もして。赤の他人まではいかないけれど、この映画が撮れた感慨はありますが、何か変わったとかはないですね。まるで他人を雇ったことに等しい、それはちょっと、言い過ぎかもしれないですが(笑)。

―また、劇場公開時のレビューなどで、園監督は自分のパブリックイメージを壊したいために『地獄でなぜ悪い』を撮ったという意見がありましたが、その真意はいかがでしょう?

それは毎回ですね。今年の夏に『TOKYO TRIBE』という映画が公開されますが、今回の“地獄”に続いてアクション映画です。これは本当にバカな映画(笑)。アクション映画を連続で撮って、本当にスカっとしました。満足しました。そこには前の映画と違うものを撮りたいという欲求がいつもあって、自分のイメージを大切にしようという気はないです(笑)。そういうことで映画を撮ってはいないです。

―なるほどです。あくまでも映画人として、自身の想いを追求しているということですね。

映画に関しては、そうですね。園子温に求められていることをやるというよりは、自分がやりたいことをやっていこうと思っているだけ。これはある意味、危険な綱渡りですよね。自由であろうとするために、ファンが求めていることと違うことをするので。だから、『冷たい熱帯魚』が大ヒットした時に、『ヒミズ』『希望の国』というラインは、完全に客を裏切っている。でも、僕個人にとっては、どうでもいいこと。そのリバウンドで純粋に娯楽映画が撮りたいという欲求が出たので、この“地獄”がスッキリと生まれてもいるわけで。

楽しい気分で来ているので、接客態度に気を使ってほしいですかね。明るい接客を(笑)!

―「イオンシネマ」のようなシネコンは、お客さまに映画というバトンを渡す、最後の場所になります。そこで映画監督として、そこで働くスタッフたちにメッセージはありますか?

そうですね。難しいですね(笑)。たとえば、これは接待業一般に言えることですが、接客態度に気を使ってほしいですかね。せっかく楽しい気分で来ていても、よくない態度だとシュンとなっちゃう。明るく接客しましょう!
アメリカなどは上映する本数多いので、チケット売り場の人にアドバイスを求める光景があります。どれが面白い?って。こういうサービス、日本にもあるといいと思います。白人は初対面の人同士が会話することに長けているとしても、日本でも定着するといいと思います。その売り子の人が、この映画は70点とか、怖いホラーだとか、ズバズバ言っている。これは面白いなと思いましたよね。それと、向こうのシネコンでは、最初に解説が入ることがある。これも面白いと思います。

―たとえば監督の映画が初日を迎えた時など、ご自分で確認しに行くこともありますか?

「園子温(映画監督・アニメーション監督・CMディレクター)」

いや、ないですよ(笑)。それはよっぽどでしょうね。自分の映画に対して、過保護な映画監督じゃないですか(笑)。ただ、実家に帰った時に、周囲にシネコンが増えたので、観放題ではありますかね。観たい映画があるかどうかは別として、そこまで増幅していると、僕が観たい映画もかかっていることもあって(笑)。いい時代と言えば、いい時代ですかね。

―最後になりますが、今後も『地獄でなぜ悪い』のような痛快な映画を撮ってほしいです!

まあ、撮りますけれど、とにかくいっぱい撮ろう、くらいのことしか考えていないですね(笑)。僕は、それほど考えていないというか、自分で映画を撮っている理由がよくわかっていないので。そのうち、何か生まれてくるとは思いますが、いまは暗中模索ですねえ(笑)。

Profile

【VOICE09】園子温 映画監督・脚本家 愛知県出身。1987年、『男の花道』でPFFグランプリを受賞。PFFスカラシップ作品『自転車吐息』は、ベルリン国際映画祭正式招待のほか、三十を超える映画祭で上映された。以後、衝撃作を続々と誕生させ、各国で多数の賞を受賞。映画以外にも大ヒットドラマ『時効警察』(06・07/EX)の脚本・演出なども手掛けている。近年では『愛のむきだし』『冷たい熱帯魚』『恋の罪』『ヒミズ』『希望の国』が立て続けに海外で評価を受け、注目を集めた。現在、次回作となる『TOKYO TRIBE』が待機中。
©2012「地獄でなぜ悪い」製作委員会/取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

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