THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE26 歌手、俳優、タレント 太川陽介

最初に思ったことは、ただただ、「何考えているの?」って

― 当初、テレビ番組の“バス旅”の映画化が決まった際、そうとう驚かれたそうですよね?

ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE

最初に思ったことは、ただただ、「何考えているの?」って(笑)。それが最初に出た言葉でした。その後は、「映画にしていいの?」でしたね。もともと台本がない番組で、どういう内容になるか誰もわからないわけです。もしかすると、すかすかの4日間になるかもしれない。その不安は毎回あって、番組として成立するかどうかはやってみないとわからない。それを映画で普段どおりにやって、はたしてちゃんと山があったりするのかなって。

― ところが今回の劇場版では、台風に見舞われるなど、映画的なスケールも生まれました。

この番組が“持っている”わけですよ。テレビでも毎回、何かしらあるんです。それは始まった当初から番組が持っているツキみたいなものがあって、何かが降りてくるんですよ。それが、今回の映画では台風。ああいうことは、今までなかったことです。どういうわけか事が起こるわけです。台風がなければ、もしかすると、すかすかだったかもしれない(笑)。

― マイペースの蛭子能収さんや、マドンナの三船美佳さんとの掛け合いも楽しかったです。

蛭子さんとは、最初の頃は腹が立ってしょうがなかったけれど、もう慣れましたね(笑)。4日間一緒にいたら、誰だっておかしくなりますよ。よく番組の中で“魔の3日目”って言うじゃないですか。あれってね、ルートが大変だったり、物理的な魔の出来事と思われていますが、もともとは人間関係のことなんです。だいたい3日目ぐらいで、ぎくしゃくしてくるんです。朝から晩まで一緒にいて、こっちが真剣にやっていて、「頑張ろう!」って言っているそばで、「着いてもバスがない」とブツブツ言う(笑)。そういうことなんです。

最近のシネコンはきれいですが、チケットを買うまでが大変な時があるかな(笑)

ローカル路線バス乗り継ぎの旅 THE MOVIE

― ところで、普段「イオンシネマ」のようなシネコンに映画を観に行くことはありますか?

最近は行けてないですが、子どもの頃、初めて映画館で観た映画は、『モスラ』(61)でした。ザ・ピーナッツ、衝撃的でした。その後、とっても楽しみにして観た映画が、『小さな恋のメロディ』(71)。小学校6年生くらいの時でしたかね。京都市内に遊びに行った時に、大感動しましたよ。田舎だったので公開が3か月ほど遅れる時代で、下手したら半年後とかザラ。待ちに待って観に行って、トレイシー・ハイドの大ファンになりました。当時は映画館でブロマイドを売っていた時代で、それを買ってね(笑)。本当に懐かしい話しですが。

― 今のシネコン時代では考えられない話です。ジャンルとしては、青春映画が好みですか?

夜中にCSで放送していると今でも観てしまうけれど、やはりいいですよね。僕は、青春映画が大好きで、有名じゃないかもしれないけれど、『ワン・オン・ワン』(78)というバスケットの映画もいいですよ。SF映画は苦手ですが、昔のアメリカ映画によくあった爽快感を感じる映画が観たい。クリント・イーストウッドの『ザ・シークレット・サービス』(93)なども、ドラマがあっていいですよね。そういう映画を、映画館で観たいですかね。最近のシネコンは、とにかくきれいでいいですが、チケットを買うまでが大変な時があるかな(笑)。

太川陽介

― 映画館で映画を観る際に、パンフレットを買うとか、どういう楽しみ方をしていますか?

僕は一人で映画を観ることが得意ではなくて、感動した後に一人で消化することがつまらないんです。昔、京都で撮影が午前中で終わって、合間に『シンドラーのリスト』(94)を一人で観ましたが、とてもシリアスじゃないですか。これをなんとか一人で消化しなきゃいけなくなって(笑)。誰かと観ていれば、話して消化できるけれど、ひとりでズドーンときちゃって困ってしまった。シリアスな映画は皆で観たほうがいいかなって僕は思います。

この映画は映画館で皆でわいわい、話をしながら観ていいと思いますよ(笑)

太川陽介

― “バス旅”は映画化まで迎えましたが、シリーズと出会って変わったことはありますか?

プライベートでは、この5、6年ですかね、「ま、いっか」と思うようにはなりましたね。これは楽ですよ(笑)。「いつも完璧にやらなくちゃ」と思い、それで潰れそうな時もあったのですが、だんだん年齢とともに自分の力がわかってくることもあるし、それまでは他人に対しても厳しかったけれど、「まっ、いっか」で許せちゃう。これは自分も周囲も楽になる。それは変わりましたね。もうバスがない、しょうがないか、「ま、いっか」ってね(笑)。

― バスの乗り継ぎに失敗したら、歩いて移動しますからね。そこで生まれた気づきですね。

最近は5キロなど短いもので、「1時間? 歩こう、歩こう」みたいな。そういう感じですよ。お正月のスペシャル番組でも番組史上最長の、4日間で40数キロ歩くことに。とにかく歩いた。おかげで蛭子さんが健康になりましたよ。最初の頃は、1キロ歩いただけで死にそうでしたから。後ろを歩いていて息が切れて、「この人死んじゃうかも」って(笑)。今だったら5キロぐらいスタスタ歩く。蛭子さんは番組のおかげだって言っていますから(笑)。

― こういう楽しい映画は、それこそ映画館の大きなスクリーンで皆一緒に観たいですよね。

そうですね。この映画は映画館のなかで、皆でわいわい話をしながら観ていいと思いますよ(笑)。テレビのように。昔の映画館って、そうでしたよね。拍手するとか、掛け声をかけるとか、そういう感じでわーわー楽しみながら観てもらってもいいかもしれないですね。

Profile


							プロフィール 太川陽介 歌手、俳優、タレント 1959年1月13日生まれ。京都府出身。1976年、「陽だまりの中で」でレコードデビュー。翌年、3曲目のシングル「Lui-Lui」が大ヒット。同年暮れの「第19回日本レコード大賞」を初め、各音楽大賞の新人賞を獲得する。以降、アイドル歌手だけでなく、俳優・タレントとして幅広く活躍する。2007年、テレビ東京系列の「土曜スペシャル」にて、太川と蛭子能収、女性ゲストの3人が、日本国内の路線バスを乗り継いで3泊4日の日程内に目的地をひたすら目指す番組、「ローカル路線バス乗り継ぎの旅」が大ヒット。今回、初の映画化が実現した。2016年2月4日(木)~新歌舞伎座にて、舞台「かあちゃん」に出演予定。
取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

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