―今回の『湖の女たち』、オファーが来た時はいかがでしたか?
最初にお話をいただいた時、吉田修一さんの原作であるということと、大森立嗣さんが監督ということに、魅力を感じました。作品を読み、出演にすることについては実はまったく躊躇なかったです。今まで演じたことのない役柄ではありましたが、挑戦したいと前向きに考えることができました。人間のリアルを描いた作品を経験したこともあまりなかったので、貴重な機会をいただくことができたと思っています。
―物語や演じられた刑事・濱中圭介役について、感想はいかがですか?
原作や脚本を読んでも、圭介については理解しづらいところがあったので、どう演じていこうか非常に悩みました。でも、いざ現場に入って撮影が始まると、大森監督からは頭で考えたお芝居ではなく、その場で感じたことを表現する“脊髄反射”のようなお芝居を求められたんです。今までの自分のスタイルとは違うお芝居への向き合い方を学ぶことができました。
―また、難しいセリフやシーンも少なくなかったような印象でした。
役者としてはディープなシーンやセリフ自体はあまり気にしないのですが、そういうことよりも、僕自身はこれまでエンタメ性が高い作品への出演が多かったので、人間臭さを描いた作品であることが、僕にとっては新しかった。エンタメだとキャラクター付けもしっかりしないといけないですし、むしろそれを大きく表現するお芝居を大事にしてきたのですが、今回はむしろある意味「お芝居をしない」ことが重要。それが劇場のスクリーンに映る人たちの在り方かもしれないなと気付いたきっかけになりました。
―その映画の現場での仕事の魅力について改めて教えてください。
映画の現場は、作品の出来上がる工程も大好きなんです。準備、撮影、編集、公開という流れのひとつひとつが、きちんと確立されている感じがすごく好きで。ドラマにはドラマの魅力がもちろんありますが、映画は特に撮影から公開までの期間が長いことが多いので、その分期待が膨らむ気がします。公開までのプロモーションの時間も好きです。
―監督や脚本も手がけられた経験もあると思いますが、映画の現場での監督、俳優としての求められている役割とは何でしょうか?
俳優はチェスの駒のようで、監督はプレイヤーのようだなと感じています。最近僕が監督のショート映画を撮ったことで、映画というのはやはり監督のものだという意識が大きくなりました。でも、駒である俳優がいかに魅力的かで、作品の強さが変わってくる。どちらも同じくらい大事なんだと思います。
初めて監督・脚本を経験させていただいて気付いたことは、俳優として出演する作品よりも、「生みの親」という感覚が大きくなるんだなと。作品を我が子のように愛おしく大切に思う気持ちがありました。
―それぞれを経験されている福士さんならではの理解ですよね。
監督も経験させていただいたからこそ、役者のやりがいを改めて認識することができました。お芝居の奥深さをより知ることができたので、僕自身ももっと頑張っていきたいなと思っています。
―映画館に映画を観に行かれる際のこだわりはありますか?
映画館にひとりで行く場合、後方中央席に座ることが多いです。音響が良さそうな席に座りたい気持ちがあって。友だちと観に行く場合は、端の方に座ることもあるのですが。
ジュースと一緒にポップコーンを買うのも好きです。映画館で映画を観る時は映画館という場所も楽しみたいので、買っている時が多いかなと思います。
―最後になりますが、映画を楽しみにしている方へ一言お願いします。
まるで抽象画を見ているかのような作品だと思います。解釈に戸惑う瞬間もあると思うのですが、自分の頭の中で映画のメッセージを理解しようとする楽しみもありますし、自分が感じたことを誰かと共有するのも良いと思います。ぜひ、劇場に足を運んで観ていただきたいです。