―沼田まほかるさんの原作小説のどこに惹かれて、映画化したいと思ったのでしょうか?
自分の身体に流れている“血”との葛藤の話、出生にまつわる“血”の話を、監督になる前からずっと映画にしたいと思っていました。ヒロインの美紗子は洋介という男性と出会って、人を殺してしまう衝動と人を愛する気持ちをしだいに共存させていきます。その相反する2つの心を持った美紗子がすごく魅力的だったので、映画化したいと思ったんです。
―その美紗子役に吉高由里子さんを起用されたいちばんのポイントは?
吉高さんと仕事をするのは今回が初めてですが、随分前にお会いしたことはあって。彼女はわりと明るい役が多いですが、そのときから僕は薄幸な美しさを出せる人だなと思っていたし、吉高さんだったら魅力的な美紗子を実存させられると確信していたんです。
―洋介を演じた松山ケンイチさんと組むのは、06年の「親指さがし」以来ですよね。
そうですね。ずっと一緒にやりたかったんですけど、僕は若い年代の青春映画を撮る事が多くて、その間に彼は立派な大人になってしまったからなかなか組めなかった(笑)。今回やっとオファーできましたが、彼が演じた洋介も過去の罪に囚われている難しい役です。でも、松山くんならこの役を成立させられると確信していたので、お願いしました。
―映画化が難しいと言われていた原作ですが、実際にはどんな苦労がありましたか?
「ユリゴコロ」は美紗子と洋介が生きる80年代と、1冊のノートを発見したことで知られざる運命に引きずり込まれることになる亮介(松坂桃李)が生きる現代が交錯し、ひとつの物語を作り上げています。それをどうしたら映像で上手く見せていけるのか?というところと、観客が共感しづらい美紗子という女性が最終的にどうなるのか?という決着のつけ方については相当悩みました。それに、原作には小説でしか成立しない仕掛けもいっぱいあって。だから、原作から派生させたり、オリジナルで仕掛けを考えて、映画的なサプライズをいくつも作っていきましたね。
―本作はミステリーのスタイルで描くラブストーリーです。美紗子と洋介との歪な愛を観客が共感できるように描くのも、かなりハードルが高い作業だったのではないでしょうか?
このふたりが惹かれ合っていくところは、僕は逆に演出をしたかったんですよ。種類は違うものの、同じように傷を持った者同士が惹かれ合っていくプロセスにすごく醍醐味を感じていたんですが、洋介が美紗子に一風変わった告白をするシーンは、松山くんが僕が想像していた以上に素晴らしくて。あの成立しにくいシチュエーションやセリフに説得力を持たせてくれたし、松山くんの俳優としての底力を見せつけられたような気がしました。
―吉高さんの美紗子も期待通りでした?
吉高さんも、シーンごとにこちらが求めるいい表情をしてくれました。“過去編”のクライマックスでは、あまりにも壮絶で切ない表情をしたから、“こんな顔をするんだ?”って驚いて。原作にはないこのシーンで複雑な愛憎劇を完成させた彼女には本当に脱帽ですね。