THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE03 いとう せいこう(俳優・小説家・タレント・クリエイター)

東京・下町を舞台にした映画祭も6回目、今年は本当によく出来た、楽しい映画が多いです

―いとうさんが総合プロデューサーとして6回目を数えた“したまちコメディ映画祭”ですが、今年のプログラムは例年以上に豪華なラインナップになっている印象を受けました。

第6回したまちコメディ映画祭in台東 2013/9/13~9/16

© 2013 辛酸なめ子/「したまちコメディ映画祭in台東」実行委員会

今回はベスト!ベスト・プログラミング賞をスタッフに差し上げたい。何を観ようか迷う年になりました。ウラの作品も気になるみたいなね(笑)。
「映画秘宝」presents 映画秘宝まつりなど早くも完売作品がありますが、過去の例を思い起こせば今回もヒットするでしょう。
かつて『キック・アス』、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』、『宇宙人ポール』がそうだったように、『The World’s End(原題)』も後続くでしょうね。

―また今年は日本の喜劇、コメディーも注目ですね。園子温監督の最新作が話題騒然です。

園子温監督の『地獄でなぜ悪い』がオープニングセレモニー&上映で、ジャパン・プレミアでしょう。園子温のコメディーですよ(笑)。でも、とても素晴らしい。ヤクザの抗争を映画撮るっていう話で、そこに起用を余儀なくされる映画少年のなれの果ての映画青年たちが、本当にうれしそうな顔をして撮りまくる(笑)。残酷なシーンでもね。その表情が素晴らしくて、何度も泣いてしまいました。虚構に虚構を重ねていくわけだけれど、その先には殺し合いという現実が待っているわけ。でも、現実に負けないことが大事っていうね。これは、本当によく出来た映画ですよ。園子温の映画愛ですね。本当にびっくりしました。

―外国のコメディー作品もバラエティー豊かですが、特に推すタイトルなどありますか?

「 いとう せいこう(俳優・小説家・タレント・クリエイター)」

『マッキー』、これもすごいですね。125分、インド映画にしては長くないよね(笑)。インドも考え始めたかな(笑)。
あるガールフレンドをめぐって、権力を持っている恋敵に殺されてしまう男が主人公で、この男がどういうわけか、どこかの谷間で即ハエに生まれ変わる(笑)。その後、恋敵の前に戻って来て、小さい非力なハエが組織を潰していく物語。
だから、後半以降はほぼCGで、バカな映画だなあって思うけれど、最終的にはハエに感情移入している自分がいる。しかも、これは上映が盛り上がるように、ダンスとかクラッカーなどを許可する“ライブアクション上映”をします。今年は本当に楽しい映画が多いです。

―国によって、全然作風が違いますよね。その背景には、お国事情が色濃くありそうです。

その通りで、たとえば国によって政治・経済状況が違うことが映画でわかります。『アイ・ドゥ・ビドゥビドゥ』というフィリピン映画は延々歌って踊って楽しいミュージカル映画ですか、底抜けに明るい。オープニングにフィリピンの活気づいている街を映して始まるけれど、これが完全にクレージーキャッツの映画なわけですよ。日本の高度成長時代に無責任とか言ってお気楽に歌って踊って、何本も映画を残したじゃないですか。その時代の波が、今アジアに来ていると思いますね。インド映画の『きっと、うまくいく』など、完全に植木等のノリの(笑)。インドが経済成長している背景が、この映画にはありますよね。

いまイオンシネマが日本一? でかい(笑)!いずれシネコンで特集上映とか、“したコメ”とのコラボレーションも不可能ではない

―ところで、イオンシネマのようなシネコンに通って、新作映画を観ることはありますか?

最近は行けていないですかねえ。ただ、『パシフィック・リム』みたいな映画があったけれど、あの手の作品は巨大なスクリーンで観ないと(笑)。わくわくする映画を観たいですね。

―足が遠のいてしまった理由ですが、わくわくする映画が減ったことが理由でしょうか?

そこまでは思わないけれど、昔は映画館そのものがわくわくする空間だったわけですよ。ヤジは飛ぶわ、タバコの煙はぷかぷか(笑)。映画を観ながら感想を言い合っている人も、極めて多かったですね。それがシネコンになってお行儀がよくなって、静かに観なさい、映画に対して文句さえ言うなという風潮まである。だから、そうじゃなかった時代は、むちゃくちゃな映画が多かったですよ。まるで故意にヤジを狙っているようなね。お行儀がいい映画を、お行儀がいい人に向けて作っていては、そりゃあ韓国映画やフィリピン映画に負けていってしまいますよね。今回、マサラシステム上映を許可する作品も“したコメ”では上映しますが、もっと歌って踊って、一緒に盛り上がって映画を観たい願いですよね。

―今年7月イオンシネマは日本一の規模を誇るシネコンになりましたが、新しい映画館の取り組みなど、従来のシネコンになかったサービスなど何か期待することはありますか?

いまイオンシネマが日本一?でかい(笑)!僕は思うことがあって、シネコンみたいな場所は特集上映をしないですよね。昔の映画館は大規模なチェーンなどでもオールナイトとか特集上映が多かったでしょ。クレージーキャッツ特集とか北野武特集とか、あちこちでやっていたじゃない。そういう企画を、イオンシネマにいくつかやってほしいですね。

―まさしく“映画祭”ですよね! そういうイベント系の企画は、盛り上がるでしょうね!

面白いと思いますね。昔のソフトをエディティングだけで新しく見せてしまって、特集上映として2本~3本。6時間くらいの娯楽を提供する。今は単体の作品がたくさん一気に楽しめるけれど、それこそ“映画祭”感がほしいですよね(笑)。そうすれば、古いソフトも再生する。そこに水道橋博士プレゼンツ、秋元康プレゼンツとかつくと、全然違うでしょう(笑)。いずれは僕も企画参加するとか、それこそ“したコメ”とコラボレーションだって、不可能ではないですよね。特にスクリーン数が多いので、実現すれば面白いでしょう。

いつか昔の日本映画界のように、喜劇も悲劇もバランスよく共存する時代に戻るはず

―さて、“したコメ”ではザ・ドリフターズやクレージーキャッツなど昔のコンテンツを温故知新的に毎年紹介していますが、コメディーが少なくなった現在でも反響は大きいです。また、園監督の新作も含め、たとえば映画界に何か回帰現象が起こっている気はしますか?

「 いとう せいこう(俳優・小説家・タレント・クリエイター)」

僕たちは、その流れに寄り添っている側面はあると思いますね。“したコメ”が直接的に影響を与えているというイメージじゃなくて、ふわっと発生したコメディーに素早く反応して、自分たちも応援していく感じかな。
ただ、日本の映画界はここ数年、コメディーにまったく手を出さなかったけれど、はっきりとコメディーを作りますっていう人が出ていることについては、僕たちにも若干の寄与があると思う。つまり、『キック・アス』、『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』、『宇宙人ポール』などを示して、ヒットに導いていますからね。今後、これを目指すクリエーターが出ることは自然の流れですよ。

―そもそも、若手育成のための役割を果たすために、発足している側面もありますものね。

そうですね。僕たちは彼らに成功してほしいわけで、常に支えていかなければいけないですよね。そして、彼らが成功すればするほど、昔の日本映画界のように喜劇も悲劇もバランスよく共存する時代に戻る。そういう時代になると思っています。実はインド映画の『きっと、うまくいく』は、そこまでヒットするとは誰も思っていなかった(笑)。それがコメディーは人の胸を打ってしまう作品で、日本にもマーケットがあることの証明になったわけですね。そこに“したコメ”を5回続けたという自信と実績を僕は正直、感じますよね。

―最後の質問になりますが、今後の“したコメ”の展望、野望など一言お願いいたします!

全世界にはコメディーを作っている映画監督がたくさんいて、いわゆる喜劇俳優を目指す若者もごまんといるわけ。そういう人たちが出たい映画祭にしたい。“したコメ”はいいチョイスをする、いい人が集まる、だから自分たちも出たいと思っていただくことが僕たちの願いで、同時に喜びですよね。そうなると、東京のダウンタウンって趣味がいい、ってなるはずでね(笑)。たとえば開催中に『ウォーム・ボディーズ』のジョナサン・レヴィン監督がゲストで来日しますが、半纏か半被を着てお出迎えしようかって話も出ていますよ(笑)。だから映画だけじゃなく、日本の下町、日本の文化、すべてを発信したいですよね。

「第6回したまちコメディ映画祭in台東」は、2013年9月13日(金)~16日(月・祝)開催!

公式サイトはこちら

Profile

【VOICE03】いとうせいこう 俳優・小説家・タレント・クリエイター 1961年3月19日、東京都生まれ。早稲田大学法学部 卒業。大学在学中よりタレント活動を始める。1984年、講談社に入社。雑誌の編集部に所属し、1986年退社。俳優、タレントとしての活動だけではなく、『ノーライフキング(1988年)』や、『想像ラジオ(2013年)』などの小説執筆や、園芸雑誌の編集長も務めるなど、作詞家、ラッパー、ベランダーと、マルチに活躍するクリエイター。
©2013 Old Town Taito International Comedy Film Festival. 取材・構成・撮影/鴇田 崇(OFFICE NIAGARA)

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