THE VOICE|special interview:「映画にかける思い」映画業界に関わる著名人の方々に、さまざまな角度やテーマで映画にまつわるお話をしていただきます。/VOICE88 モデル 中条あやみ

「私自身、何でも一人でやっちゃうタイプ。でも、作品を通して、人間は誰しも一人では生きられないと考えさせられました。」

水上のフライト

―近日公開予定の「水上のフライト」は、不慮の事故で高跳び選手としての夢を絶たれた遥がカヌーと出会い、パラリンピックを目指す物語ですが、事故以前の遥は、鼻持ちならないほど自信満々で高飛車な人でしたね

「まさに“ザ・女王”と呼ばれ得る雰囲気の、ちょっと意地悪でイヤな奴だったと思います。でもスポーツ選手として頑張っている人は、誰かと比べて頑張るというより、自分自身との孤独な闘いを続けていると思うんです。そんな遥でしたが、自分のすべてを懸けてきた陸上が出来なくなり、カヌーと出会って少しずつ色んなことに気づかされていく。遥の成長や変化を感じさせるためにも、冒頭の嫌味な姿は、とても大事だと思って演じていました。」

―ところが、カヌーの先生に「カヌーでパラリンピックを目指さないか?」と言われた際、遥は激しく怒って拒絶しますね。

「確かに遥はカヌーを楽しいと思い始めていましたが、自分のすべてを懸けてきた陸上がダメになったからといって、すぐにカヌーに飛びつくような気持ちには、とてもなれなかったんですよね。遥の孤独感や怒りがすごく表れている、演じていても色んな気持ちがあふれてきたシーンでした。」

水上のフライト

―一方、エンジニアの颯太が遥に言う「今までは一人で生きてきた、と思ってるんだ?」という意味の台詞が、とても印象深かったです。

「私も、その台詞が一番強く印象に残っています。遥の気持ちの転換となる、とても大事で、大好きなシーンです。実は私自身、何でも一人でやっちゃうタイプなので、お母さんからよく『一人で生きてきたみたいな顔をしてるけど、ちゃうで』とよく怒られていたんです(笑)。今ならこの台詞の意味がすごく分かるな、と思いました。それに人間、誰しも一人では生きられないし、人に迷惑をかけるのも当然。それに与えられたものを誰かに返すことが出来るのも人間なんだ、など様々なことを考えさせられた台詞です。」

「この役を演じたからこそわかることを伝えていきたい、と思っています。」

水上のフライト

―肝心のカヌーは、どれくらいトレーニングしましたか?

「撮影前の約1か月間、大学のプールをお借りして週に1度くらい。最初は安定感のあるレジャー用のカヌーから始めたのですが、それでも真っすぐ進まない状態で。慣れたところで競技用の細い本格的なカヌーに乗ったのですが、一瞬でチンして(カヌー用語で“ひっくり返る”)、心もチ~ンとなりました(笑)。」

水上のフライト

―そこから出発し、実際のカヌーのコーチから「選手として通用するくらいの才能があるから、本格的にやった方がいい」と言われるほどの腕前に上達したわけですね!

「元々通っていたパーソナルジムで、体幹を鍛えていましたが、この役のために腕や背筋を集中的に鍛えました。現場にはいってからは、撮影をした旧中川で、空き時間や撮影後に練習したりしました。でもまさかコーチにそんな風に褒めていただけるとは思っていなかったです。そっちの道もあるのかな、そっちに進もうかな、と一瞬思いました(笑)。」

水上のフライト

―遥を演じ、何か使命感のようなものを感じましたか?

「車椅子の先生やカヌーの先生とお話をして知ったことや、実際に車椅子に乗って、目の前を自転車が通り過ぎるだけですごい恐怖心を覚えるなど、初めて感じたことも多々ありました。また、道具がとても高価なので、カヌーを続けていくことが大変だということも初めて知りました。この役を演じたからには、そういうことも含め、車椅子での生活、パラリンピックやパラ競技についてなど、これからもずっと伝えていきたい、と思っています。」

Profile

中条あやみ 女優、モデル 1997年2月4日生まれ、大阪府出身。「CanCam」専属モデル。2011年よりモデルとして活動をはじめ、14年に「劇場版 零~ゼロ~」に映画デビュー。以降、ドラマ、CM、映画に多く出演。主な映画の出演作に「ライチ☆光クラブ」(15)、「セトウツミ」(16)、「チア☆ダン ~女子高生がチアダンスで全米制覇しちゃったホントの話~」(17)、「覆面系ノイズ」(17)、「3D彼女 リアルガール」(18)、「ニセコイ」(18)、「雪の華」(18)などがある。
撮影=野崎航正 取材・文=折田千鶴子

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